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フィルム写真が身近になるスキャナ OpticFilm 8200i Ai レビュー

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フィルム写真ライフ、楽しんでますか? あるいは、これから始めてみたい方のために、今回は私がいつも使っているフィルムスキャナを紹介してみようと思います。扱いやすく、フィルムの深みを楽しむことができるフィルムスキャナ、plustek社のOpticFilmです。


簡単、奥深い

フィルムの利点の一つに「肌や空が美しく写る」というのがあります。なんとなくそーかも、と思って楽しんでらっしゃる方には余計な小話になりますが、フィルムは緻密なグラデーションを持っているのでスキャン時に色調補正をしてもトーンジャンプやトーンのねじれが起きないのです。標準的なデジタルなら14bitRAWから現像・色調補正をして最終的に8bitに落とすわけですが、OpticFilmは48bitでスキャン入力しますのでスキャナソフト上での色調補正に余裕があります。フィルム写真が美しさの秘密はグラデーションのつながりにあります。

おお、それはすごい。と思っていただいたところで申し上げにくいのですが、実際にフィルムをスキャンしてグラデーションを整えようとすると、なかなかテクニックが必要なのですね。でも安心してください。OpticFilmはその点が簡単なのでお勧めできます。

ホコリに強い

OpticFilm 8200i Aiは35mmフィルム専用です。これは多機能なフラットベッド方式と比べて見劣りする部分かもしれませんが、使い勝手の良さを考えると一概に判断できるものではないです。具体的にはホコリに対しての徹底的な強さがあります。

OpticFilmはフィルムトレーの小さな挿入口しかホコリが入り込むところがありません。その挿入口にも扉がついていますから空中を舞うホコリが読み取り面に付着することはありません。フィルムトレーは35mmフィルムを6コマずつセットするタイプです(マウントなら4コマまで)。基本的にその小さな面にだけ注意を払えばホコリが付いたままスキャンしてしまうことはありません。これがフラットベッド方式だと読み取り面が広いのでケアしきれないことがあります。

加えて、OpticFilm 8200i Aiには赤外線スキャンも付いています。これはカラーネガにしか有効ではありませんが、赤外線を使ってフィルム面の付着物のみを読み取ることでホコリを画像処理によって自動除去する機能です。完全なソフトウェアによる処理よりも綺麗に除去してくれます。なお、下位機種のOpticFilm 8100には赤外線スキャンがありません。


SilverFast Ai Studio 8が付いてる

付属のスキャナソフトはプロ仕様のSilverFast Ai Studio 8です。本来は単体で4万円くらいするソフトです。OpticFilm 8200i Aiは5万円くらいなので、実はほぼソフトの値段かも? 他のスキャナに流用はできないですが、やはりお得だと思います。

SilverFastはプロ仕様なだけあって、かなり細かいところまで手が届く設計になっています。裏返すと、扱いが難しいソフトなのですが、ワークフローパイロットという機能を使えばとりあえず簡単に使うことができるので大丈夫です。むしろ深みにはまりだすとSilverFastでの作品づくりが楽しくて仕方ないでしょう。

SilverFastについては留意点があります。それはアップデート内容が不安定なところです。機能追加とバグフィックスを交互にアップデートしているような状況なので安易にアップデートするよりは付属のCDに入っているバージョンのまま使う方が安定します。アップデートしてから挙動がおかしくなった時はアンインストール後にCDからインストールしなおしましょう。

その他の機能としてカラーキャリブレーション用のチップを使ったスキャナの補正もあります。下位機種のOpticFilm 8100には付いていませんし、SilverFastもSE Plus 8という下位版になります。この辺りをどう考えるかで8100か8200i Aiかを選ぶことになります。

フィルムスキャナは毎年のようにモデルチェンジする製品ではないので1万5千円くらいの差であれば上位機種の8200i Aiの方が良いと思います。もしも4年使って買い換えたとしても差額分は月額300円でしかないです。私は毎月300円をケチって不便であるよりは、最大限の機能を使ってみたいと思いました。


画質とスキャン速度は条件次第

肝心の部分について触れます。まず画質、特にシャープネスを気にする方もいると思いますが、これはアンシャープマスキングの設定次第です。何を写したか、どのように見せたいか、出力(プリント)のサイズはどのくらいかなど、条件を挙げればキリがないほどです。SilverFastのデフォルト値では量を100%・半径を1.0にとっています(Photoshopなども同様)。私の場合はweb用の画像なら90%・0.3くらいから試し、大きなプリントなら120%・2.0くらいまで試してみることもあります。あとでサイズを変える時はアンシャープマスキングはかけません。基本的にアンシャープマスキングは最終工程としてかけます。

次にスキャン速度について。これはPCの処理速度に依存するようです。スキャナ本体が読み取ったデータはPCに送られ、それをSilverFastが処理する仕組みのようです。ですからSilverFastで重い処理を設定するとスキャン速度は遅くなります。アンシャープマスキングはその最たるものです。私は作品として扱うつもりのない写真にはアンシャープマスキングをかけずにスキャンし、後工程でPhotoshopなどを用いてアンシャープマスクをかけます。品質は落ちるはずですがディスプレイではわからないくらいですし、この方法なら断然スピードが速いです。PCのメモリが占有されているとスキャン速度が低下することがありますから、なるべくPCのコンディションが良い時にスキャンをしましょう。

スキャン解像度の決め方

デジカメとスキャナとでは読み取り方式が異なるのでピクセル数だけをみて過度に設定しないように。webやA4プリントくらいなら2400dpiで十分です。作品にしたいと思う写真は3600dpiにしてA3プリントできるように備えます。A2やA1にするつもりなら7200dpiも選べますが、撮影の技術と適切な機材がないと35mmフィルムから伸ばすのは難しくなってきます。

繰り返しますが解像度を高く設定する必要はありません。7200dpiでスキャンしてから縮小するような使い方は意味がないです。確かに画像を縮小して綺麗にするテクニックは存在しますが、それはベイヤー方式のセンサーを利用したデジカメ画像に有効なものだからです。OpticFilmは画素の演算補完処理がなくノイズもないので元画像からしてクリアです。縮小した画像と最初からその解像度の画像とでは見分けがつかないものになります。


FUJIFILMは注意が必要

最後にちょっと面倒なところを指摘します。FUJIFILMのフィルムを使うと、ほとんどのケースでプリセットのネガフィックスでは色が微妙に不自然になります。なぜかと思って調べたのですが、実はFUJIFILMは国内向けと海外向けではフィルムが違うのです。製品名が同じでもデータシートが異なるケースもあるため非常にややこしいです。プリセットはおそらく欧米向けのフィルムに合わせてあるようなので、逆輸入版のような存在のPRO400Hなどは比較的よく変換できているように感じます。反対に、SUPERIA PREMIUM 400やACROS 100のように海外で販売していないフィルムはプリセットされていないので、適当に他のプリセットを当ててからカーブをコントロールするなど、やや高度なテクニックが求められます。

代わりに、海外製のフィルムのプリセットは廃盤のものも含めて多種多様に揃っています。輸入フィルムで遊びたい方にはもってこいでしょう。

おわり

自宅でフィルムスキャンをすると、お店にフィルムを渡してプリントするよりも多くのコントロールができるようになります。最終的にお店に頼む場合でも指示用の見本プリントとして役立ちますから自宅で作り込みができるのは便利なことです。
以上、OpticFilm 8200i Aiのレビューとちょっとしたポイントをご紹介しました。

13 コメント:

  1. よく勉強されていますね。知らないことばかりでとてもためになりました。

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    1. とりおたさま、コメントくださりありがとうございました。3ヶ月も遅れてごめんなさい。
      トリオターで鳥オタだったら、などと思っておりました。
      お役に立てたなら幸いです。

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  2. OpticFilm 8200i Aiを購入してテストスキャンを進めておりますが、「黄ばみ」がうまく取れません何かいい案があればご教示ください。

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    1. M.M様、ご相談ありがとうございます。
      買ったばかりであればガイドブックに沿ってワークフローパイロットを試しておられるかと思います。黄ばみの原因は様々に考えられるのですが、まずはカラーモードとフィルムの銘柄の設定が合っていてCCRにチェックが入っている状態でスキャンし、自動画像最適化をおこなっても黄ばんで見える場合についてご案内してみます。

      上記の状態であればヒストグラムのColor Cast Removalを100にすると色かぶりが補正されます。それでも黄ばみが感じられる場合はグローバル色補正をブルー方向に設定すると画像全体の色調がニュートラルに近づくはずです。グラデーションのカーブをRGBそれぞれに調整すると細かくコントロールできますが、他の方法に比べると面倒ではあります。

      もしも、適正に撮影・現像された どのようなフィルムをスキャンしても色合いがおかしいということがあればキャリブレーションが必要です。また、ご使用の液晶ディスプレイがブルーライトカットやペーパーモードの機能がある場合にも黄色方向に見えますので、スキャンした画像を他のデバイスでも閲覧して確認すると原因が突き止められるかもしれません。

      さしあたって以上のことで解決すると良いのですが。

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    2. SYUSAY様
      早速の回答ありがとうございます。
      ご教示頂いた解決案を含め、いろいろ奮闘してみます。

      取り急ぎ御礼まで。

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  3. SYUSAY様
    OpticFilmの情報があまりないので、とてもためになりました。
    率直に言うと、購入しようか迷っています。
    日頃は、現像のお店に希望の色味を伝えて、データ化までお願いしていますが、
    最終的には、フォトショップで調整しています。
    それだったらフィルムスキャナーから自分でやってもいいかなとも思っています。
    私の好みの写真は、明るめだけど白飛びせず階調が残っているフィルム写真が好きなのですが、
    OpticFilm 8200i Aiで、明るいところにも階調が残るようにできるでしょうか?
    ちなみに使用しているのはネガフィルムです。
    もちろんのネガフィルムの状態にもよるとは思うのですが。

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    1. MERA様
      ご感想ありがとうございます。励みになります。
      ご質問について、ネガであればスキャンによる白飛びは原理的に起きないと考えて差し支えないかと思います。画像のハイライト部分というのは、すなわちネガの上では濃色で遮光性の高い部分です。ここに強い光を当てて透過像を得るのがネガスキャンです。白飛びが起きる原因は2つで、光源の明るさが足りないか、ネガ自体が撮影時に露光過多となっているかです。むしろ光源が明るすぎることでシャドウが潰れてしまうことのほうがネガスキャンでは問題となるのでOpticFilmの場合には光源の明るさを抑えてシャドウの階調を取り込む機能があります。

      というわけで白飛びについてはご心配いらないと思います。私の手元のネガに限って言えば、お店に何も指定せずにスキャンしてもらった画像よりも、自分で自動スキャンしたもののほうがハイライトの階調がなだらかです。

      留意点は、階調表現は電子的な中間データよりも最終的なアウトプット方法(プリントや表示モニタ)に影響を受けることです。例えばインクジェットプリントのハイライトは用紙の色の影響を受けますし、SNSへの投稿では見る人のスマホの機種によって階調の再現性も違うものになって相手の目に届くことになります。また反対に、データ上では階調が不完全でもアナログプロセスによって階調を補完する手法もあります。何が言いたいかというと、フィルムスキャナはマニアックな道具なので大いにおすすめはできないのだけれど、色味のこだわりがおありなのでしたら教材としても役に立つので悪い買い物ではないのではないかな、と。35mm判しかスキャンできないという欠点もあるので、やはり強くプッシュできなかったり。歯切れが悪くて申し訳ないです。

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  4. 早速お返事いただきありがとうございます。
    とても詳しく教えていただき、感激です。階調について勉強になりました。
    近いうちに購入することになりそうです。
    ネガフィルムのデータ化において、なるべくフィルムの描写を再現したいと思っています。
    特にハイライトになだらかな階調を出すポイントは、
    ①撮影時、適正露出より1段階明るめに撮影する。
    ②スキャナー時、OpticFilm 8200i Aiを使って48bitでスキャン入力する。
    現時点では、以上のように考えているのですが、正しいでしょうか?
    もしくは、他にポイントがありましたら、教えていただけませんか。

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    1. MERA様
      購入することになりそうですか… 私が悪い道に引き込んでいるのではないかとドキドキしますね。

      階調を出すポイントは仰る通りだと思います。こだわるとすると、①はネガフィルムの「適正露出」をどう考えるかでしょうか。例えば、portra400は感度6〜3200の範囲で像を記録できます(何が写っているか判別できる)。その中で一般には感度320付近が最も綺麗だと言われています。400から1段明るくすると200ですが、人物の顔などは評価測光だと半段ほど暗いので実際には300前後に相当する…という理屈で「1段明るく」すると人物の顔ならば丁度良いことになります。これはフィルム銘柄によっても違います。私の感覚だとnatura1600は1〜2段明るくて良いと感じますが、人によっては1段に留めるでしょう。なお、人物を撮るときのセオリーなので花や空を撮る場合は適正露出を考え直す必要があります。

      ②を補足しますとコンピュータ的な話題で退屈ですが、48bit入力の正体はRGB各色16bitです。つまり16bitTIFFで保存(出力)すれば各色16bit・合計48bitのデータをフォトショップに渡せます。スキャン時に調整をかけて画像を完成させたなら8bitJPGで保存(出力)すれば良いです。蛇足と思いますが、各色のbit数というのは、RGBのうちの例えば赤(R)の濃度が8bitは256階調で、16bitは65,536階調あります。調整時に65,536階調の中から256階調を抜き出してグラデーションを描けるので滑らかで美しいのです。

      他にポイントというと、技術的なことよりも、ご自身の理想の階調・色再現を追究する気持ちが大事だと思います。調整具合が適切なのかどうか、やり直しができるせいでデジタルの世界は迷いが生まれやすいです。そのようなときは、ぜひプリントを作ってみられると良いかと思います。スキャナ購入の暁には楽しんでください!

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  5. お返事ありがとうございます。
    購入については、ご心配なく。フィルムカメラをはじめてから、ずっとOpticFilm 8200i Aiは気になっていたので。
    詳しい説明ありがとうございます。本当に目からうろこです。
    ネガフィルムの銘柄ごとに、一番綺麗だと言われる感度があったんですね。そんなこと考えもみなかったです。
    フィルムカメラがさらに楽しくなりそうです。
    最後にもう一つ質問させてください。質問攻めですみません。
    階調について、SYUSAY様はとてもお詳しいですが、フィルムの階調に一番近いデジタルカメラは何でしょうか?

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    1. MERA様
      フィルムの階調に一番近いデジカメですか… ラチチュードの広いネガを再現できるデジカメは残念ながらありません。でも、ラチチュードの狭いネガやポジの再現はFUJIFILMが頑張っています。特にX-T2は総合力が高くていいですね。フィルムメーカーのフィルムシミュレーションは納得いくと思います。

      もしも画質だけを最優先してよいのならCCD搭載のカメラを推したいところです。中でもLeicaのM9ですね。フィルム時代のごく普通のレンズを組み合わせることで懐かしい雰囲気が出てきます。階調はレンズによるところも大きいので、気に入ったレンズを装着できるカメラであることも大事なポイントです。

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  6. SYUSAY様
    ご教示ありがとうございます。
    デジカメでフィルムを再現するのは、難しいのですね。確かに綺麗だなと思う写真は、フィルム写真が多いように思います。
    FUJIFILMが頑張っているのは、嬉しいです。私は、デジカメではFUJIFILMのXE2を使っているので。
    LeicaM9は手が届かないところですね。羨ましい限りです。いつか手にすることができれば…
    OpticFilm 8200i AiにしろLeicaM9にしろCCDがお勧めなのですね。
    様々なことを教えていただき本当にありがとうございました。SYUSAY様のおかげで自分の写真への世界がかなり開かれたように思います。腕は、全然追いついていませんが。
    ちなみに私も、写真だけのシンプルなブログをやっています。
    最近は、ライカのLマウントのW-NIKKOR・C 3.5cm f2.5を使って撮っています。オールドレンズの柔らかい描写が気に入っています。参考になるかわかりませんが、よろしかったら、ご覧ください。
    本当にありがとうございました。

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    1. MERA様
      W-NIKKOR・C 3.5cm f2.5は素敵なレンズですね。ニッコールは奥深いので私は手を出さないように我慢していますが、そのレンズはそれらの中でも一番最初に欲しいと思ったレンズなのでよく覚えています。X-E2も良いカメラです。FUJIFILMはレンズがいいのでシステムを揃えたくなりますね。
      CCDは、今となってはCMOSと比べて欠点の多いセンサーなものの、好条件下では被写体の存在感を伝え、きらめくような描写を見せるのが特長です。35mm判だとM9くらいしか選択肢がないですが、APS-CならFUJIFILMのFinePix S5 Proも定評があります。機会があれば試写されてみて、同じFUJIFILMでもX-E2と違うかどうか確かめてみるのも一興かもしれません。花などを撮るとわかりやすいです。

      お写真はこっそりと拝見いたしました。やさしくて、ホッとする、気持ちのよい写真ですね。更新を楽しみにしておりますので、ぜひ撮り続けてください。
      お役に立てたようであれば嬉しい限りです。

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