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心を整えるソング ─ホール&オーツ

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Daryl Hall & John Oates という音楽アーティストを知ってますか?日本ではホール&オーツと呼ばれて1980年頃にヒットしていたそうです。──私が生まれる前です。
私がこの(古い)アーティストを知ったきっかけはちょっとした海外ニュースからでした。数年前のことなので情報元は忘れてしまったのですが概要は次のようなものだったと思います。
ある自殺多発エリアに「いのちの電話」の代わりに「ダイヤルすると音楽を聴ける電話」を設置したところ、予防効果があった
このニュースを読んだ私はさらに詳細を調べて実際に使われた曲のリストにたどり着きました。それから一曲ずつ聴いてみて、その中から私が最も「気持ちが安らぐ」と感じたのがホール&オーツでした。
聴き続けるとどうなのか興味があったのでホール&オーツのベスト盤もすぐに買いましたが、正直に感想を述べれば「退屈」でした。それでしばらく──1年半くらい聴くことなく過ごしていました。
転機は、またしても海外ニュースでした。
うつ病の人にはヘヴィー・メタルを好む人が多い
2つのニュースには直接の関係はないのですが、私は大いに興味を惹かれました。というのも、この2つの音楽は曲の構成や旋律が対極にあると思ったからです。
ここからの考えは──私は音楽ファンではないし、まぁ、10代の頃には少しだけ作曲をかじった程度──そのくらいのものとして記しておきます。
ホール&オーツもヘヴィー・メタルもバンド音楽です。ヴォーカルを含めても最小構成で4パート──ヴォーカル・ギター・ベース・ドラムだけで演奏されます。そのため2つの違いはパートの種類などではなくパートごとの旋律にあると考えられます。
ヘヴィー・メタルの音楽的特徴を一言で表現すれば「技巧」です。ドラムとベースも複雑な旋律を演奏しています。ヘヴィー・メタルを楽しめるということは、脳がそれだけ多くの音楽的情報を処理できるということ──または、処理しなければいけない、とも考えられるかもしれません。
これは近年の報告にあった、うつ状態の人は複雑な問題に対する解決力が高い ということと反しないと思います。(ただし、証明にはなりませんけど)
一方のホール&オーツは、私が「退屈」と評してしまったくらい、シンプルな演奏です。一般的なポップスやロックがヴォーカルを主役とするのに対して、ヘヴィー・メタルは全部のパートが主役の現代楽器版オーケストラでした。でも、ホール&オーツは主役のはずのホール&オーツ自身が、現代の曲と比べたら、とても主張が少ないのです。「俺の歌を聴け!」という熱気がなく、聴いていて疲れない音楽です。
曲の構成にも特徴があります。現代の曲の構成はワンパターンながらも複雑です。そして音楽的な起承転結に沿って濃い味付けがしてあるのが普通です。だいたいは前奏でサビのフレーズを流してから、Aメロ、Bメロ、盛り上がりを煽るフィルインを挟んで、サビを繰り返し、間奏ではギターソロが主張し、…最後は怒濤のサビの連続の後に余韻を残すエンディングといった具合です。
ホール&オーツは違います。Aメロに続いて、たぶんこれがBメロ、それからたぶんこれがサビ…という具合に転じ方が小さいです。曲のタイトルを歌っているから今がサビだ、というくらいに全体的に同じような雰囲気が漂っています。
驚いたことに、エンディングがフェードアウトか、それに近い終わり方をします。フェードアウトで終わることは、小説でいえば結末を書けなかったようなもので、曲の評価を下げる要因にさえなるものです。
ところがホール&オーツはこのフェードアウトと雰囲気の一貫性によって、いつの間にかサビになり、そしていつの間にか次の曲になっているという不思議な状況をつくります。
歌詞のある楽曲でありながらBGMとして流しておいてもうるさく感じません。聴くというより聞こえているという感覚です。
以上から、ホール&オーツの楽曲が脳に優しく──心にも優しい理由がわかるような気がしています。
ところで、心を癒すリラクセーション音楽ではダメなのか?という疑問があるかもしれません。その答えは「ダメ」と言ったほうがよさそうです。
いくつかのリラクセーション法について、高ストレス下で取り組むと状態を悪化させる という報告があるそうです。そのため、リラクセーションは健康な人が健康を維持する目的でおこなうものというのが現在の考えです。差し迫った状態の人の緊張を解くのは、張り詰めた風船に針を刺すようなものだと思ったほうがよさそうです。
ホール&オーツの楽曲はその点でみればニュートラルです。曲調はポジティブ過ぎず、ネガティブでもないです。テンポは歩くよりも速いくらいです。心を癒すというより、心を整えるという表現が合うと思います。
いわゆる「フロー状態」に導く作用があるのではないかと期待していますが、明らかなことはホール&オーツの楽曲が疲れている心にちょうどよいという実感だけです。
元気なときは退屈な音楽に感じますが疲れているときは心地よいので、バロメーターとしても役立っている気がします。
以上、ちょっとしたレポートでした。

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