workdays by Syusay 毎週の関心事を綴ってます

dp2 QuattroでFoveonデビューするアナタに贈るレタッチのコツ(とか)

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たいそうなタイトルをつけてしまったな、と思ってます。それはさておき、出ます。dp2 Quattro。6/27発売。これを書いている時点で各所に実写レビューが掲載されてきています。どうやら扱いやすさが良くなっているみたいで、今までだと初心者にはおすすめできないカメラとして「あ〜、私はコレ使ってますけどぉ、でもソレとかアレのほうが用途に合ってると思いますよ…」なんて受け答えをしていたのは過去の話になるのでしょうか。シグマのカメラを他人に薦める「まっとうな」シグマユーザーの姿へと私たちも変貌できるのかもしれない。

本題に入るにあたって、私はカメラマンではなくてDTPデザイナーだということを書いておきます。撮影よりも編集が本分です。だからこそレタッチのコツというタイトルになってます。私がシグマユーザーになった要因もレタッチにあります。日常的にレタッチをしていると画像の限界が見えてしまうんです。まずはベイヤーセンサー由来の画像を見ながら説明してみます。なお、基準が曖昧ですがこの記事は画像編集の中級レベルをイメージして書いています。ツールの使い方などは省略しているのであしからず。



下の画像はCanon EOS 5D Mark III のサンプル画像の一部です。このシリーズはプロカメラマンがよく使っていますね。DTPデザイナー(レタッチャー)も見慣れている画像だと思います。


これは選択範囲を作って被写体を切り抜こうとしているところです。拡大して作業するシーンと思ってください。赤いところが被写体で白いところが背景です。その境界の部分にハイライトとシャドウがあるのが見えますね。このエッジが他の背景に重ね合わせたときに違和感のもとになってしまうので選択範囲をエッジの内側に取っています。この後、他の背景の上でエッジを作り直せばきれいになじませることができます。

カメラのレビューには「等倍で見たときの印象」が出てきますが、レタッチャーとしては「ピクセルで見たときの構造」が重要かと思います。この例は斜め線なのでスムージングを考えると理論上は境界線を2〜3ピクセル程度の幅で表現できるはずなんですが、実際には8ピクセル使ってエッジが作られています。知覚的にはシャドウのピクセルまでは被写体なので上の画像のように選択範囲を取ると被写体は「えぐれて」しまいます。この「えぐれ」が人物の頬にできると非常に目立つので困ってしまいます。なので、そういう部分だけ別の方法で処理したりします。

それと、赤の面がかなり均質なことを覚えておいてください。これは女性のジャケットの一部なのですが、写真全体から推察するとサテンというより綿にポリエステルの混合かな、と思うような素材です。この確証の得られなさはベイヤーセンサーの欠点です。例えば、後から商品写真としてジャケットの画像が送られてくるようなケースで「あれ!? 本当のテクスチャはザラッとしてるじゃん!!」なんてことがあるかもしれません。光沢がきれいだな、と思って画像を追い込んでいたならアウトになっちゃいます(そんなに先走って作業しないとは思いますが)。


といったあたりが今までのデジカメ画像のレタッチでは注意が必要だった点に思います。これがFoveonセンサー由来の画像では異なる。良し悪しはいったん置いておいて(私は良いと思うけど)、レタッチの方法や手順に見直すべきところがあります。

dp2 Quattro のサンプル画像が公開されていましたので同じように被写体を切り抜く作業をみてみましょう。拡大したのはカンムリヅルのくちばしの部分です。


ご覧の通り、エッジを1ピクセルだけ捨てて選択範囲を作ってみました。これが可能だということからして凄いんですが、凄さが伝わらない気がしながら書いています。比較すると先ほどは8ピクセル捨てていたので、Foveonには被写体の輪郭の処理に大きなアドバンテージがあります。通常の被写体の中にも肌とシャツと頭髪などの全ての境界で違いが生まれています。そのため、Foveonの場合にはアンチエイリアスをオフにして作業したほうが良い結果が得られる気がします。ブラシのフェザーなども同様に抑え気味がよいです。ベイヤーの場合には「ぼかし」を入れておくことで曖昧にしておくほうが良かったりしますが、Foveonはシャープなので下手に「ぼかし」が入るとかえって目立ってしまいます。

また、被写体の「塗り」の部分について見てみると1ピクセルごとに異なる色が塗られているのがわかります。ベイヤーなら画素補完によって近似色で塗られるところですが、Foveonでは青っぽいピクセルや赤っぽいピクセルや緑っぽいピクセルというような複雑な構造をしています。シグマのカメラで撮った写真はマイクロコントラストが優れていると知られていますが、事実ピクセル単位でコントラストを生んでいるのですから他を圧倒する質感表現があります。


さて、ここまでを読んでお気づきになったかもしれませんが、画の作りが異なるということは最終工程におけるシャープ処理を変える必要が出てきます。DTPデザインにおける常識的な処理は「常識的な」ベイヤー由来の画像に対応して編み出されてきたからです。ベイヤーの場合は塗り絵のような線と塗りで構成されています。これにシャープをかけると特に線が強調されてシャープさが感じられるようになります。一方のFoveonは点が集まった面で構成されているため、今までのようにシャープを適用すると「なんかザラついたかな?」という程度の変化しかしないことがあります。これについてはまだ最適な方法がよくわからないのですがシャープ系よりもストラクチャ系の処理のほうが感触がいいなと思っているところです。

そして、今度はFoveonの面倒なところといいますか、欠点というよりハードルが高くなったせいで生じている問題についても触れます。まとめを大雑把に書くとFoveonは面がザラッとしていてベイヤーはノッペリしています。で、私たちはノッペリを見慣れています。するとFoveonの面を見たときに「これノイズかな?」って思ってしまうことがあるんです。シグマユーザーは「特有の色ノイズ」として認知しているかなと思いますが、どうもこれはノイズではなくて実際に写っているんじゃないかな?という気がしています。以下にFacebookにメモっていた画像を転載します。


左下の分析画像を見ていただくと階段の裏面に「( 」に似た形状のパターンが見えます。元画像ではこの形状で色のあるまだら模様を認めることができます。正体を現場で確かめましたが、これ「左官屋さんが右手で作業したときのストロークの痕跡」だろうと見えました。テクスチャは均質なのですが表面にわずかな湾曲があるのです。これはベイヤーでは写らなかったレベルのものです。ノッペリと処理されることで曖昧にされていた部分がハッキリと見えるようになってしまったので煩く感じることも出てきてしまったんじゃないかと思います。

右半分はこの問題を処理した後の画像です。メモ用なのであえて不自然なくらい処理を強くしています。ノイズのように見える部分の色情報だけを整理することでスッキリするのがお分かりになるでしょうか。なお、青丸で囲った部分はミスの例です。作業の際は空間に回っている光がどのように反射しているかを考えて最低限の処理に留めることをおすすめします。


以上がちょっとしたコツでした。あとは雑感になりますが切り抜きがかなりイケてますよ。一般の方はご存じないと思いますが、髪の毛はレタッチの工程でうまく切り抜けないので後から「増毛」することもあったりします。愚直にブラシで描くんですね。デジタルだけどアナログな作業です。これがFoveonだと髪の毛が1本ずつきちんと分離して写っているので「どう料理してくれようか!」という気にさせられます。レタッチャーやDTPデザイナーにとってはかなり面白い画が得られるのでぜひシグマのカメラを使ってみてほしいと思います。

もっとも、被写体ぶれがあればそうもいかないわけで、シグマのカメラは最高画質を得ようと思ったらシビアなのも確かです。手ぶれや像面湾曲などの問題を考えるとユーザーにとってもシグマにとっても厳しいカメラといえるでしょう。しかしラフに撮ってもベイヤーのようなエッジは出るはずもなく、根本的な写りが異なるカメラだということは念頭に置いてみてもよいと思います。


最後に、dp2 Quattro を買おうか、それともSD1 Merrill を買おうかと悩んでいる(かもしれない)人のためにコメントを添えておきます。なんせ価格の差はそれほど大きくないですからね。

もうこれは「画質のdp」と「利便性のSD」と思っていただくのがよいです。大は小を兼ねるではなくて、フォワードとキーパーくらい役割が違うと思ってください。私は古いDP1xとSD1 Merrillを使い分けていますが、解像感について書くとSDのほうはミラーショックとレンズが専用設計でないことの影響を見てとれます。大判プリント用の写真を撮るならdpのほうがお世話が簡単でしょう。SDで画質のためにミラーアップして真っ暗の光学ファインダーを覗いているときの気分はなんともいえません(もちろん他の一眼レフもそうだけど)。

自分の好きに撮影するのならdpがいいと思います。反対に「ねぇねぇ、撮って〜」ということであれば(仕事を含め)、やっぱりSDがいいです。私はSDのおかげで「ズームレンズって凄い発明だったんだな」と思っているところです。特に取材のようなものでは拾えるシーンが多彩になります(不満はといえば、縦位置に構えたときにAFボタンを押しにくいこととか。シャッターボタンにAFを当てればいいだけと言われるとそれまでだけど)。

シグマのカメラはいずれにせよ望遠が今のところの課題です。中くらいの価格帯に新設計で望遠の明るいDCズームレンズが欲しいと思ったりしてるところです。それ以外のところでは先に挙げたズームレンズだとか、F1.4が使いたいとか、そういったことがなければdpがおすすめです。シグマのカメラはルーキーであるがゆえか進化が早いので、最新のものほど扱いやすさを感じられるんじゃないかと思います。


そんな感じで、以上となります。私はというとdp2 Quattroを買うか、それともSDのアイデンティティになりそうなF1.8通しの標準ズームレンズを買うか、価格が近いだけに悩んでみたりしています。悩んでいるうちは買わないってことなんですが、シグマさんがキャンペーンなんか始めたりすると精神の均衡が崩れて… どちらを買っても「散財」にはならないと変な言い訳を考えだしたりして。

それでは!

2 コメント:

  1. お初でございます、大変興味深く読ませて頂きました。
    事後承諾ですが勝手に Facebook にシェアさせて頂きました、ヨシナニ。

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    1. HITOSHIさま、ようこそ。ご連絡ありがとうございました。
      ご興味をいただけたようで嬉しい限りです。特にカメラのことを専門に書いているブログではございませんが機会を見つけて話題を提供したいと思います。どうもありがとうございました!

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