インプレッションを書いてみます。結論としては、私はありなんですが、事前に予想していたような「誰にでも薦められるFoveonカメラ」ではなかったですね。Foveonへの入り口としてはdp0 Quattro か、dp2 Quattro が良いと思います。
では、印象的だったところから順に。
(写真はSD1 Merrillによるものです)
オートフォーカスはとても遅い
sd Quattroを楽しみにしていたシグマユーザーは覚悟していたと思いますが、その覚悟を少し上回って若干のショックを与えかねないような遅さです。2008年頃のコンデジの合焦速度をイメージしておけばショックを和らげることができるかも。挙動はまだ掴みきれていないけど、位相差があっても詰めをコントラストで行うからなのか、明るい室内でも位相差がすぐ諦めるからなのか、スッと合わせずに最後がジリジリと慎重な動きをすることが多い気がします。
ただ、オートフォーカスが遅いのは仕方のないことです。シグマのアートラインのレンズは画質優先の重量級レンズですからフォーカス用の玉も重いと考えるのが自然です。慣性の法則の通り、重い玉をキビキビ動かすのは難しいはずで、一般的な傾向として画質と合焦速度は反比例していると感じます。カールツァイスのOtusはマニュアルフォーカスレンズですが、あれはそういう割り切りではないでしょうか。
もしかしなくてもSD1 Merrillよりオートフォーカスが遅いように感じるのですが、正確さと安心感はsd Quattroのほうが上ですね。
F2以下でも合焦は信頼できる
これは良い点。sd Quattroはコントラスト式を備えているから当然なのですが、SD1 Merrillにはできなかったことなので大きな差に感じます。
私の恥ずかしい失敗談では、女性のモデルさんを撮っているときにピントがよく見えず、あとで確認したらピントが顔でなくおっぱいにきてたことがありました。F4以上ならギリギリ使えなくもないけど、F2以下では目立ってしまいますね。SD1 Merrillはライブビューのない光学ファインダーカメラなため、結果を見るまでわからないという怖さがあります。sd Quattroなら安心ですね。今まで不可能とさえいえたことがsd Quattroでは可能になりました。
速度か精度か
私はSD1 Merrillとsd Quattroは使い分けるカメラだと思いました。sd Quattroはひとつのカメラの成長した姿というよりは、SD1 Merrillの可愛い弟なのです。兄にできなかったことを弟がやるけれど、兄にできることをわざわざ弟がやることもない、というような存在。
問題はどのあたりで線を引くか。ひとつの考え方としてF2以下を使いたいときはsd Quattro、ということになるのですが、それはどういう状況なのか? 次の写真を参考に出します。
イトトンボを撮りました。SD1 Merrillで50mm F2.8の撮影結果です。35mm判の換算でいうと75mmの画角にF4の被写界深度になります。体長5cmほどのトンボですが、瞳にピントの芯を持ってくるとおしりの先端はボケます。被写界深度は前後合わせて10cmもないでしょう。
このように、APS-CでF2.8、フルサイズでF4というのは被写界深度としてはたいていのものがちょうどよく写り、もう一段ほど絞っても良しという使い出のあるF値です。これより開けて撮るべきシーンは意外に少ないです。SD1 MerrillでもF2.8ならピントを合わせることは普通にできるので、何か目的があって印象的な写真を撮りたいならsd Quattroを積極的に選ぶことになるでしょう。
ちゃんと持ちやすい
これだけ書いて締めましょう。私は心配してなかったのですが、形が変じゃないかという意見があったので、そのアンサーです。
まず、マウントがニョッキリと飛び出ている点。これのおかげでレンズを握りやすくなってます。左手が窮屈だったレンズもガシッと掴めるようになり、カメラの安定性が増しました。じつはこの一点だけでsd Quattroを選ぶくらい気に入ってます。カメラが安定していると撮影に集中できるからです。
次にファインダーが右寄りで使いにくいのではないか?という点。たしかにそう見えるけど、右手を基準にしてファインダー位置をみれば小型一眼と同じくらいのポジションです。EOS Kissなどと似たフィーリングで構えることができるので最初の1回から違和感なく目に当てがうことができました(私は右手を頬に当ててカメラを安定させるので、右手基準でファインダーがあると使いやすい)。
また、光軸のズレについては、一眼レフを縦に構えたって左右にズレますし、そもそも光軸がまったくズレないカメラは大判フイルムカメラくらいなものです。カメラの歴史的にみても光軸は大した問題になっていないので、これに対応できないユーザーはいないでしょう。むしろ、横向きに構えたiPhoneのようにレンズ位置が左にあるので、写真とライトに関わってきた人でも使いやすいのかもしれません。
以上ここまで。オートフォーカスのレンズ対応状況が最大の問題に思えましたが、対応レンズでも個人的には閾値を下回る遅さなのでどうでもよくなりました。慣れたレンズならマニュアルフォーカスのほうが速いです。レリーズ後のEVFのブラックアウトも長いので、全体的にみて、動体を追うのは諦めてる感じです。
画質についてはSPPと現像技術次第なところがあるので特に書くことはないかな。SPPのアップデートがあれば評価が変わってしまいますし。ベイヤーでは得られない画が欲しいなら使うしかないし。
画質についてはSPPと現像技術次第なところがあるので特に書くことはないかな。SPPのアップデートがあれば評価が変わってしまいますし。ベイヤーでは得られない画が欲しいなら使うしかないし。
ご参考程度に。
SD1 Merrillとsd Quattroを実際に使われている方のレビューは大変貴重なので読ませていただきました。
返信削除そこでご質問なのですが、両機を比べた際にsd Quattroの絵が点描?のように描写されているような気がするのですが気のせいでしょうか?(特にピントが外れている部分は、Merrill機のようにつるっとした感じとは違い、ものすごく色の乗ったノイズ?のような感じでグラデーションが再現されているような気がするのですが・・・)
今後の両機のどちらかの購入を考えておりますので、そのあたりで何かご参考になるご意見でもいただけますと幸いです。
J N様
削除コメントありがとうございます。はじめに申し上げなければならないことに、この記事は古くなってしまっていて、ファームウェアの更新があってからは実用性が高まっています。なので、この時の印象よりもsd Quattroは良いものになってます。もう一つ、実は私はsd Quattroは手放してしまい、今はQuattro Hを買うか、予備のMerrillを買い足すかで迷っています。これはQuattroが悪いという意味でなく、操作感の異なるカメラを併用するのが良くないからです。
さて、お尋ねの件ですが、おっしゃる通り、Quattroはそのような描写をします。このことについて以前からのFoveonユーザーは欠点として受け止める人が多いということも付け加えておきます。ただ、真に欠点かどうかはJ N様が判断されると良いと思います。あくまで参考用としてですが、私は下記のように考えています。
まず、点描のようなグラデーションがどのようなケースで気になるかというと、主たる被写体が「人物の肌」や「空と雲」であるケースです。しかし、これらは解像力を必要としない傾向にあるのでFoveonで捉える必要性が小さいと思います(ちなみに私はポートレートではキヤノンを使っています)。また、反対に「砂浜」や「コンクリート建築」などは点描のようなグラデーションでも気になりません。
次に、点描が実際のプリントで見えるかどうかです。紙にも解像力の限界がありますから、Quattroの目安として、印画紙であればA2以上、インクジェットならB2以上にならないとQuattroとMerrillの差をパッと言い当てるのは難しいと思います。あるいはモニタでの等倍鑑賞で点描に気づけたとしても、紙のプリントでは「ドットが詰まっている」と言いますか、「アナログの滲みがあって、ドット間隔がない」ため、点描とまでは感じないはずです。
ただし、大幅なアウトフォーカス部分では印象としてザラついて感じられるとは思います。かと言ってこの一点においてのみSD1 Merrillを使ったところでF1.4などは満足にピントが合わないですからアウトフォーカス部分を論ずる以前の問題になってしまいます。レンズごとにピント調整する手間も考えるとsd Quattroの方がずっと実用的です。
最後はLOWモードについて。2,704x1,808ピクセルの488万画素で記録するモードがLOWですが、この状態だとセンサーのRGB入力が1:1:1になるためなのか、画質的にはMerrillと同等のように見えます。これでインクジェットのB4サイズに足りますし、その上で質感表現はFoveonならではのものが得られます。インターネット上でも取り回しの良いサイズですし、撮影時の連続撮影枚数(連写)も増えるので、私が最もよく使うのはLOWです(SD1 MerrillならMedium:3,264x2,176ピクセルを使います)。
私なりの結論としては、全倍や一辺が1メートル以上になるようなサイズの作品をつくる予定で、かつ、被写体が細かいケースにおいて、Merrillを選びます(これは三脚必須なので撮影スタイルにも影響します)。それ以外のケースではQuattroの方が適していると思います。
SIGMAは作品づくりに特化していますが、特にQuattroについてはうまいバランスだと思っています。いくら作品と言っても全紙サイズ以上にすべき写真は限られますし、プリントコストが負担になりますから。J N様におかれましては、撮りたい被写体と、最終的なアウトプット(モニタなのか紙なのか)を考慮して選択されると良いかと思います。もし画質が気になるようでしたらメーカーのサンプル画像をダウンロードして、それでプリントを作ってみると実感が湧くと思います。モニタで見るのとは違ってきますので。
長々としました。ご参考になれば幸いです。
SYUSAY様
削除たくさんのアドバイス本当にありがとうございました。
私の場合、仕事用途ではなく素人が趣味で使うカメラとして購入を考えているところですが、以前保持していたDP2 Merrillの作る絵の衝撃が忘れられず、いずれかはまたFoveon搭載機を購入したいが、単焦点では物理的に被写体に近寄れない場面で困るという場面があったので、レンズ交換式でなおかつ旧式のMerrillか最新のQuattroかでご相談させていただいた次第です。
なお撮影後の写真についてはほとんど印刷せず、写真加工や合成などモニタで見ることを前提とした利用が主なので、画素数は大きいほうがよく、なおかつご教示いただいた内容と照らし合わしてもSD1 Merrillが良いのかと感じました。ただDP2 Merrillでも若干外すことのあったピント合わせが果たしてSD1 Merrillにおいて、素人にどれだけ調節可能なのかだけが不安として残ります。(DP2 MerrillではAF後、MFで微調節しながら撮影していましたが・・・)
その点、SD QuattroのAF性能についてはいかがでしょうか?
J N様
削除なかなか難しいお悩みですね。どうしてもMerrillの絵が好きであれば、SD1 Merrillが良いのかもしれません。しかし、DPとSD1 MerrillとではAF方式が異なるので、使用感がDPに近いのはむしろsd Quattroのほうです。SD1 Merrilはライブビューがありませんから、デジカメというよりは「フィルム一眼レフがデジタルフィルムを使っている」という感覚になります。
sd QuattroのAFは速いほうではありませんが、DPをお使いになってらしたのであればそれほどショックは受けないでしょう。どのメーカーであれ、センサーサイズが大きいほどレンズも大きくなり、その上で高画質と浅い被写界深度を求めるほどにAFは難しくなります。sd Quattroはスピードよりも精度を優先するタイプのAFです。
一方で、SD1 Merrillは軽量なコンテンポラリーラインのレンズとの組み合わせでは軽快に撮影できますが、アートラインのレンズでF2.8未満を多用するような場合にはピント精度を出すのが困難です。AFで合わない場合はMFで詰めるのがセオリーですが、SD1 Merrillのスクリーンではそれも難しいです。F2でモデルさんの目にピントを合わせる、というようなことは実用上は不可能と判断しています。
AF性能はカメラとレンズとの組み合わせで考える必要があるので、F値が小さいレンズを組み合わせるならsd Quattroが良く、絞り気味で使用するズームレンズを組み合わせるならSD1 Merrillでも大丈夫です。使いたいレンズを先に決めてみてはいかがでしょうか?