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風景撮影のご注文

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年度末に向けた慌ただしさも終わりがみえてきて、数ヶ月ぶりにリラックスした気分で休日を過ごすことができた。あてもなくドライブに出かけて偶然みつけた河川敷公園からの眺めを写真におさめた。釣り人がルアーでトラウトを狙っており、私はリバー・ランズ・スルー・イットを観たくなった(あちらはフライフィッシングだが)。


今、風景撮影のご注文をいただいているので、その話を書いてみようと思う。相手からの言葉は唐突に始まった。ちょうどこんなふうに。

「写真を撮ってきてくれないか」
「〜〜山が向こうにあって、手前には桜が咲いていて…」

私は質問を交えつつ、相手の目を見る。

「自分が生まれ育った土地なんだ」
「大きな病気をしてしまったし、もう足が悪くて自分では行くことができない」

さて、あなたならどんな写真を撮るだろう。私ならどんな写真を撮るだろうか。

……

山が被写体の風景撮影では地図を読み取って撮影場所を絞り込むことが可能だ。下見に行くと より確実だろう。地勢によって構図は自ずと決まってくる。しかし、より重要なのは相手が持っている情報だ。サービスマンは自分で主題を決めてはならない。この件では最低限「〜〜山」と「桜」が絶対の要素となることがわかる。

さて、ただシャッターを切ってくるだけなら前半の会話内容だけで十分だ。しかし私は後半の会話内容こそ表現に欠かせない要素だと考える。話からは相手の思い入れの強さを感じることができる。論理的に当てはめていくと、まず記憶色の傾向が強いだろうと想像がつく。それと年月が経っているため、現在の景色は過去のそれとは異なるかもしれない。

幸いなことに過去のその場所の写真は相手が持っていた。ボロボロでシミのついた写真だったが、これで撮影場所は特定できた。と同時に、その景色はおそらく当時のままの姿では残っていないだろうことも確信できた。写真は桜の季節のものではなかったが、現在よりも雪が多いように思えた。きっと山は残雪に覆われていたであろう。

また、察しの通り、相手はご高齢である。そのことと記憶色の組み合わせで考えられることは何か? 記憶色は実際よりも彩度が高い。相手は若い頃にその景色を記憶している。しかし、高齢になると瞳の中にある水晶体が濁り、色もくすんで見える。つまり色のコントラストに気をつけてレタッチすることも方法に含めておこう、と思い浮かぶ。

だがしかし、さらにお話をうかがっていたところ、白内障の手術をして人工レンズに置き換えてあることがわかった。視力の問題について過敏に対応しなくてもよいようだ。プリントサイズはA4以上であればよいように思う。

あとは、会話には出てこなかった要素について想像しておくことも必要だと思う。空は「青空」か「筋雲」か、山から「朝日」が差すのか、それとも夕日で山肌が「オレンジ色に染まる」のか。相手はそれらの何に感動してきたのだろうか。

……

何かを提供するときに、相手の話は聞かずに自分のイメージをバシッと叩きつけていくやり方もあるが、私は話の聴き方や質問の投げかけ方で相手のビジョンを引き出すほうが合っている。

この方法では、広く知識を蓄えて備え、親身になって話を聴くことから始まる。いつ、どのような質問をするかによって、会話の道は多様に分岐してゆく。Aを話してしまってからではBは話しにくいということもあるから、慎重に言葉を選ばないといけないこともある。ほんの一言だけ発した事柄が真の道の入り口だったりすることもあり、それを見逃さなかったとき、または見逃してしまい打ち合わせが終わってから気づいて悔やんだり、心が揺さぶられることがたくさんある。

まったく写真やカメラの技術ではないのだが、「いかに、いい写真を撮るか」という話が多くなりがちだろうから今回のようなことを書いてみた。「いい写真とは、いかなるものか」を導くのはカメラの技術でなくコミュニケーションの技術である。…まぁ、このような気働きをしていると、たまには冷たい水のざわめきに肌と耳をさらして、ゆっくりと時間が過ぎる感覚を味わいにいきたくなるのだが。

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